研究分野の紹介など

平成13年度より会誌委員会の委員を仰せつかっています。今号では委員の自己紹
介とともにメインに所属している学会における地震工学に関する最近の研究動向
をご報告する,という企画です。メインに所属する学会ってどういう意味でしょ
う?そういう位置づけの学会が地震工学会以外に存在するという前提で企画する
こと自体,地震工学会のありかたについて考えさせられる気もします。しかしこ
こでは,そういう本質的な議論は棚に上げてお供えでもしておいて,すぐに忘れ
てしまうことにしましょう。
いずれにしても,自分自身の専門に近い分野でどういう問題が話題になっている
のか,ということについて私見を述べさせていただくことにします。こういうと
きに日頃の勉強不足がたたって恥ずかしい思いをするのですが,おかしな記述が
ありましたらなば,それは全て私の不勉強と誤解に帰するものです。関係者の方
には,ご容赦いただくとともにご指摘をいただければ幸いです。

私はこれまで比較的縁が薄いように見える2つの分野で研究をすすめてきました。
1つは確率論に基づくスペクトル解析や時系列解析に関する研究,もう1つは微動
を用いた地盤構造の推定とその手法の開発です。前者については主として,
IASSARが主催して4年に1回開催
されるICOSSARとい
う国際会議でその傾向を知ることができます。
また後者に関しては地震学会
を中心として活動してきました。

地震工学に関わる確率論的な研究というのは,広範にわたっていて簡単にまとめ
るのは難しいのですが,地震工学に関係するテーマとしては,信頼性解析,地震
危険度解析,構造同定,制御,不規則振動論といった内容を挙げることができます。
今年開催された ICOSSARでもこれ
らに関する発表が多数を占めていました。日本の土木学会の全国大会では,
「安全性・信頼性」といういかにも確率論です,というセッションには,なぜか,
かつてほど多くの投稿がないために,ひとつのセッションとし て独立させるこ
とが難しい場合もあるようです。しかし,ICOSSARを見ていると必ずしもこの種
の研究への興味が失われてしまったわけではないことがわかります。

ただ,この分野はどういうわけか若い研究者の新規参入が少なく,かつて若かっ
た人がそのままずっと続けているという雰囲気がなくもありません(奥歯にもの
が挟まったような言い方ですが,別に誰かに気兼をしているというわけではあり
ません)。
私くらいの世代の者が将来にわたっても若手だと言われ続けるという状況は,研
究の発展という観点からはあまり健康的ではないと思います。

「安全性・信頼性」のセッションがあまり盛況ではないわりには,アメリカの雰
囲気が伝わってきたのか日本においても,最近,確率論の出る幕が多くなってき
たようです。特に,原子力などの重要構造物の設計においては,入力地震動まで
も含めて確率論的手法に基づいて進めるという方針が打ち出されつつあるからの
ようです。これまで,天の声にしたがって決定されていたある種のパラメータに
対して,国民の誰もが納得できるような何らかの理論的根拠を与えようという意
向があるものと考えられます。
しかし,地震(特にプレート内地震)のように再現期間が1000年のオーダーの現象
を100年足らずのデータに基づいて統計的に処理し,しかも分布の裾のほうの小
さな確率を取り扱わざるを得ない,という状況は純粋な学問としてはいささか悩
ましい部分があることは否めません(だからといって,代替案が示せないのでど
うしようもないのですが…)。

次は,微動に関する研究,というか,地震学会における工学的な研究として,ど
のような研究がなされているかというお話です。今年の地球惑星科学関連学会の
プログラムを見てみると,強震動・地震災害,地盤構造・地盤震動といったセッ
ションでは工学分野からの参加者も多いようです。特に,断層モデルも含めた強
震動に関する情報は,地震学会を通して伝わってくるものがもっとも速くて正確
であると思っています。

地震が発生するとたちまち震源解が発表されるのが当たり前のようになってきま
したが,そのようなリアルタイム処理に近い解析法やより精度の高い断層モデル
を得るための手法について,さらなる検討がすすめられています。
また,地盤震動についても大規模な3次元数値解析が現実的になってきており,
より大規模な計算をするための手法の提案や新しい超大型計算機の計画について
も報告されています。3次元の大規模な計算ではやや不利だと考えられていた境
界要素法も効率的な手法が開発されて勢いを取り戻しつつあります。

地盤構造の推定については,比較的少ない費用で根性さえあればある程度の精度
で構造を推定することができる微動探査法が様々な場所で適用されています。た
だ,理論的にわかることとわからないことの区別がハッキリしてきたこと,新し
い解析法の提案はあまりないことなどから,手法の適用例が中心となってきてい
ます。解析法の提案はどちらかというと物理探査学会で発表されているのかもし
れません。
ただ,微動だけだとある程度以上の精度を得るのは難しいため,屈折法や重力値
とあわせて解析するといった提案もされています。

非常に限られた字数と能力のなかで,近況をお伝えすることの難しさを存分に味
わうことができました。確率のお話のところで若い研究者が少ないような気がす
る,と云うことを述べましたが,単に問題点としてそれを指摘するだけでは今後
の発展はありません。そこで,地震工学にかかわる若手の研究者同士で互いに高
めあおうという趣旨で(かなり昔から)活動している「若手地震工学研究者の会」という組織の存在をご紹介し
て,この小文を閉じさせていただきたいと思います。

若手に乞うご期待!

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