「どうして,微動なんかはじめたんですか?」

京都大学 盛川仁

「どうして,微動なんかはじめたんですか?」 という質問を受けることがあります。「なんか」というフレーズに何となく引っ掛 かるものを感じるのですが,これは,「微動の観測」と「理論的解析」を比較すると, 「理論的解析」の方が立派な研究であるというstereotypeな意識を持つ人が世の中 には存在する,ということを意味しているように見えなくもありません。

私は,これまでに,限られた地点で得られた地震動の観測記録を用いて未観測点 の波形を内挿することにより,空間的な広がりを持つ波動場を確率論的に推定する ための手法について研究してきました。 これは,地震波動場の空間的な広がりを地震直後に素早く推定することにより, ライフライン構造物のように都市内で面的な広がりを持つ構造物の地震時の被害状況 の把握に役立てることを目的としています。 わざわざ「確率論的」というところを強調しているのは,確率論を用いることで, 推定結果の精度を定量的に議論することが可能となるからです。 このことは,地震直後の緊急対応時の大量かつ正確な判断を下すことが厳しく要求 される局面で,判断の指標として活用され得ると考えています。 この研究は,確率論の工学的応用として,非常にすっきりした理論体系としてまと めることができたのですが,しかしその反面,確率論的な手法に偏りすぎていて 自然現象をどのような形で取り込み,また,具体的に自然現象の確率論的モデル とはどのようなものにすべきなのか,という非常に本質的な問題に直面することに なってしまいました。

そこで,最近では確率論的内挿法については,細かいバリエーションを別にすれば, 数理解析的な手法は一通り網羅した, ということにしてもう少し自然現象と確率論の組み合わせに焦点をあわせていく という方向を目指すようになりました。 そのような目的には,微動という現象が確率論的手法による取り扱いに適している だけでなく,自然界に豊富に存在するため容易に観測でき, そのうえ地震防災上重要な地盤構造に関する情報を提供してくれる可能性がある, といったことを考慮して「微動なんか」始めたわけです。 これまでの研究の延長として,私自身にとって分かりやすい話なのですが,実は, もう一つ,別の動機もありました。 というのは,地震工学関係の研究が地震波形を基礎として考えられるものであると いうことについては論を待たないわけですが, 多くの方々が解析で用いておられる波形の種類がなぜか非常に限られているのでは ないか,と感じたことが,その動機です。 地震波形が容易に手にはいるようになったわりには,実際に観測という地道な作業 を続けている人が意外にも少ないということなのではないでしょうか。 おそらく「地震工学」を得意とする多くの人の中でも地震計の仕組みとその 長所短所を理解したうえで,それを正しく扱い,精度の良い記録をとれる人は 限られているかもしれないと考えるに至ったわけです。 そのようなこともあって,常に地震計に触れて自分の手で記録を集め, 記録の精度を吟味することが,自らの目を養うことになる, と考えて「観測なんか」手掛けるようになりました。

以上のように書いてくると,ただ,微動を測っているだけの人のように見えてしまい ますが,最近取り組んでいる問題にも少し触れさせていただきます。 最近では,地震動を取り扱う上で,位相の問題を無視できないという考えから, 地震記録の位相角の中にどのような情報が含まれているのか, という話を扱っています。確率論的手法を適用するのにも向いているようで, 地震動の性質を議論する上で,新しい知見が得られつつあります。

以上のように,私の研究対象は(関西ライフライン研究会の会員らしくないの ですが),ライフラインに関する問題を直接扱っているわけではありません。 しかし,地震動という根本にかかわる問題を中心に据えていますので, その様な意味で,広く地震防災に対して貢献できる研究分野だと考えています。 LiNKのように多くの事業者が集まって情報交換をすることができるというのは 非常にすばらしいことで,私のように少しライフラインを離れて見ている 研究者にとって,何が問題で,何が必要であるかを知ることの出来る貴重な機会です。 今後とも,LiNKのよりいっそうの発展を望みつつ,筆を置きたいと思います。

…あっ,その前に,冒頭の質問にお答えするのを忘れていました。

本当は,上のような説明をしたいところなのですが, あまりにも退屈に過ぎると思って,いつもは,通り一遍のつまらないお答え しかしていません。 もし,こんな返答を聞かれたら,その裏の深~い意味を汲み取っていただければ 幸いです。

「やっぱり,大事なことですから。」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です